古代の遺物に魅せられた相沢青年は,行商の傍らひとり発掘を続け,関東ローム層の赤土の中から石器を発見する。読み継がれている日本人考古学者の自伝。
私には,それがどれほどのものかはわからなかったが,その鋭さのなかに,人間の歴史のもたらす跡のようなものを感じとらないわけにはいかなかった。ひょっとしたら,いま自分が立っている大地の赤土の下に,黎明期の祖先の生活の跡があると思うと,まったくふしぎな気がしてくるのだった。私はなお崖の断面をつぶさに見ながら,三片だけだったが同じような石の剥片を採集することができた。
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