もっと詳しく※東京書籍 高等学校理科用教科書「生物」より引用
化学進化
近世まで,生物は無生物から発生するという自然発生説が信じられていた。しかし,19世紀後半にパスツールらによって自然発生説は否定され,生命の起源の説明には新たな考え方が必要になった。
ミラーは1953年に原始地球の大気を想定した混合ガスに高圧電流を流して放電しアミノ酸などの有機物の合成に成功した。これによって,無機物から有機物,特に生物にとって基本的なタンパク質や核酸の生成の可能性が示された。現在では,原始大気の成分はミラーの実験で使われた気体とは異なり,窒素や二酸化炭素,水蒸気が主成分であったと考えられているが,現在の海洋の海底にみられる熱水噴出孔では,硫化水素,水素,アンモニア,メタンなどが噴出しており,このような環境ではミラーの実験と同様に有機物が合成される可能性がある。また,いん石からアミノ酸などが検出されることもあるので,有機物の起源を地球外に求める説も出されている。生命が誕生する以前の有機物の生成過程は化学進化と呼ばれている。化学進化は生命誕生の前段階と考えられている。
生物の出現と大気組成の変化
地球上で最初に出現した生物は原核生物である。これまでに知られている最も古い生物化石は約35億年前にできたと推定される岩石から発見されている。この生物化石は原核生物と考えられている。生命が生まれる前の地球には火山ガスの噴出により大気中や水中に多量の二酸化炭素が存在し,酸素はほとんど含まれていなかったと考えられている。また,水中には有機物が多く蓄積されていたと考えられている。そのため,初期の生物は,呼吸を行う生物ではなく,周囲の有機物を分解してエネルギーを得る従属栄養生物のみであったと考えられてきた。しかし,最近の研究によると,火山活動によって放出されたメタンや水素などを用いて有機物を合成する独立栄養生物も存在していたと考えられるようになっている。
その後,多量に存在する水と二酸化炭素を原料として利用して,光のエネルギーを使って有機物を合成する独立栄養生物が出現した。光合成を行う原核生物のシアノバクテリアである。シアノバクテリアの痕跡はストロマトライトという層状構造をもった岩石から発見された。ストロマトライトは20~30億年前の地層から大量に見つかり,この時代にシアノバクテリアが大繁殖したことを物語っている。シアノバクテリアと同様に光のエネルギーを用いる光合成細菌も出現したが,二酸化炭素の還元には水を使わず,硫化水素や硫黄,水素などを用いる。そのため,酸素の放出はみられない。シアノバクテリアの増殖の結果,酸素が水中に放出されたが,初めは海水中に溶けている鉄分と反応して酸化鉄として沈殿し,堆積した。これが約20~30億年前の地層から発掘される大規模な鉄鉱層の起源と考えられている。さらに放出され続けた酸素は水中に溶け,呼吸が可能な環境がつくられた。呼吸は効率よくエネルギーを得ることができるので,呼吸を行う従属栄養生物が出現し,しだいに増えていったと考えられている。