サンゴはポリプと呼ばれる小さな動物の集合体で,クラゲやイソギンチャクの仲間(刺胞動物)だが,植物と同じように二酸化炭素を吸収して有機物を合成する。これはサンゴに共生する褐虫藻のはたらきによる。サンゴは太陽光が注ぐ暖かい海域に生息し,サンゴの死骸などが積み重なって形成された地形がサンゴ礁である。サンゴの産卵は,体内受精によりプラヌラという幼生を放出する場合と,雄雌が別々に精子と卵子を一斉に放出して海中で卵を受精させる場合とがある。オーストラリアのグレートバリアリーフでは100種類以上のサンゴが一斉に放卵することで有名だが,放卵日は天候などの条件により左右されるため正確に予測することが難しい。
もっと詳しく※東京書籍 高等学校理科用教科書「生物」より引用
精子形成
動物の精巣では,精原細胞が体細胞分裂を繰り返している。そのうちのあるものは成長して減数分裂に入る。減数分裂を始めた細胞を一次精母細胞という。1個の一次精母細胞は,減数分裂の第一分裂を行って2個の二次精母細胞,第二分裂を行って4個の精細胞となる。精細胞は,形を変えて(変態して)精子となる。
卵形成
動物の卵巣では,卵になることを運命づけられた卵原細胞が体細胞分裂によって増殖している。卵原細胞が分裂し,減数分裂の過程に入った細胞を一次卵母細胞という。一次卵母細胞は,ろ胞細胞※1に取り囲まれて,減数分裂の第一分裂前期にとどまったまま卵黄を蓄積し,卵とほぼ同じ大きさにまで成長する。十分に成長した一次卵母細胞は,ろ胞細胞からのホルモンによって減数分裂を再開し,第一分裂を終えて二次卵母細胞となる。その後,多くの脊椎動物では,減数分裂は第二分裂中期で再び止まり,減数分裂の第二分裂中期に止まった状態で精子と出会う。受精することにより,減数分裂が再開される。卵では,減数分裂の第一分裂,第二分裂ともに,生じる2個の娘細胞のうちの一方は,ほとんど分裂前の大きさで,他方は極端に小さい。小さい方の細胞を極体といい,極体が生じた※2卵細胞の部分を動物極,その反対側を植物極という。極体は,多くの場合,退化し,消失する。
卵形成の過程では,卵黄だけでなくさまざまなタンパク質,RNAが卵の細胞質の中に蓄えられる。その中には,胚の前後や胚の細胞の発生運命に大きな影響を及ぼすものが含まれる。
カエルやウニでは,受精のときに重要なはたらきをする表層粒が,細胞膜のすぐ下につくられる。さらに卵黄膜,ゼリー層(ウニ,カエル),透明帯(哺乳類)などの卵を取り巻く卵膜もつくられる。卵は,普通の細胞よりもずっと大きく,動物種によってさまざまに異なった膜に取り囲まれている。そして,細胞質には,発生に必要な物質が蓄えられている。
- ※1 卵や卵母細胞を取り巻いている体細胞で,多数の細胞でろ胞と呼ばれる胞状の構造をつくっている
- ※2 細胞質分裂が終わると,大きな卵の細胞表面から小さな細胞が飛び出るように見えるので,極体放出と呼ぶ。
受精
卵に近づいた精子が,卵と接触し,精子の核が卵の核と一緒になるまでの過程を受精という。受精した卵を受精卵と呼ぶ。受精卵では細胞内のさまざまな生理的な活性が高まり,個体としての生命が始まる。
体外受精と体内受精
水中に生息する動物の多くは,精子と卵を水中に放出して体外受精を行う。精子はべん毛をもち,水中を泳いで卵にたどり着く。一方,陸上で生活する生物の多くでは,精子は交尾により雌の体内に送りこまれ,体内受精をする。精子は雌の輸卵管の中の体液中を泳いで卵に到達する。このようなしくみは,生物が陸上の環境で繁殖するのに不可欠だと考えられている。
受精の過程
放出される精子の数は,一般に卵の数に比べて多く,1個の卵に対して多数の精子が泳いでくることになる。しかし,実際に卵と受精する精子は1個だけである。卵に到達した精子のどれかが,最初に卵細胞に進入※3を始めると,残りの精子は卵細胞に進入することができなくなる。これは,複数の精子が卵細胞に進入するのを防ぐしくみがあるためである。
ウニでは,未受精卵のまわりにあるゼリー層に精子が到達すると,精子の頭部にある先体の中身が放出される。これを先体反応と呼ぶ。ウニでは,精子の先端が糸状に伸び,べん毛の動きが活発になって,精子はゼリー層を貫通する。さらに,精子はゼリー層の下にある卵黄膜を通過※4して,卵細胞膜に接する。すると精子と卵の細胞膜が融合する。そして,卵細胞では,表層粒の中身が,卵の細胞膜と卵黄膜の間に放出される。これを表層反応と呼ぶ。卵黄膜は,表層粒から放出された物質に触れることにより,細胞膜から離れて固くなって,受精膜となる。受精膜の形成は,余分な精子の進入を防ぐしくみの1つとなっている。
卵に進入した精子の核は,卵細胞の中に入るとふくらんで,ふつうの核に近い大きさの精核となる。精子から卵細胞に入った中心体は,星状体を形成し,精核と卵核とを近づける。2つの核が出会うと直ちに融合が始まって1つの核になる。
- ※3 実際には,精子が卵細胞に入り込むのではなく,精子の細胞膜が卵の細胞膜と融合し,精子の中身が卵細胞に取り込まれるのである。
- ※4 実際には,精子が単に通過するのではなく,精子と卵黄膜との間で,種に特異的な相互作用が起こって初めて精子は卵黄膜を通過できる。
動物の初期発生の概略
受精卵が発生を始めたものを胚という。動物の発生は,種によってさまざまに異なってみえる。これは動物の種類によって,卵細胞の大きさ,卵細胞に含まれる卵黄の量や分布のしかたが異なるためである。一般に,発生は次のように進む。
胚では,多くの動物の場合,細胞分裂が短い間隔で起こって細胞の数が急速に増える。このときの細胞分裂は,通常の体細胞分裂と異なって,娘細胞が母細胞の大きさになることはなく,受精卵は時間経過とともに,小さな細胞へと分けられていく。このような発生初期にみられる細胞分裂を卵割という。卵割によって,受精卵は,より小さな細胞からなる胚へと変わっていく。細胞の大きさが,ほぼ体細胞の大きさとなるころには,細胞分裂の速度も遅くなる。すると胚全体で,細胞の大規模な移動・配置換えが起こる。胚の外側にあった細胞の一部が胚の内側に入り込んで,将来消化管となるスペースができ,胚の前後が明らかになる。この過程を原腸形成という。そして,原腸形成のころ,細胞が胚のどこに位置するかによって,胚葉という細胞のグループが区別されるようになる。胚葉は将来,組織や器官形成で重要な役割を果たす。原腸形成が終わると,その動物の体制がほぼできあがる。そして胚では器官形成が始まる。このような発生の過程を通して胚の細胞は形やはたらきが変わっていく。これこれを細胞分化という。
発生における遺伝子発現
受精後,DNAの複製とタンパク質の合成はすみやかに始まる。それに対して,多くの動物種では,RNAの合成は,受精後しばらくの間は起こらないか,起こってもわずかである。転写は,胚の細胞の大きさが,ほぼ体細胞の大きさになるころになってさかんになる。受精後からそれまでの翻訳には,卵形成の過程で卵の細胞質に蓄えられたリボソームRNA(rRNA),運搬RNA(tRNA),伝令RNA(mRNA)が用いられている。RNAのほかにも,卵の細胞質には多くのタンパク質や細胞小器官が蓄えられているが,これらは細胞質中に均一に分布しているわけではない。さらに受精に伴って,細胞質内の物質や細胞小器官の分布は大きく変化する。このような卵の細胞質の不均一性が,後の発生に影響を及ぼす。そして,原腸形成期以降,胚では細胞分化が起こって,胚の領域ごとに異なった形やはたらきをもつ細胞が現れてくる。
この過程で,選択的遺伝子発現がみられるようになる。胚だけでなく成体内でも脊髄や肝臓などの組織には,分化する能力を保ちながら増殖する少数の細胞がある。このような細胞は,脊髄や肝臓などの本来の組織のもとになるという意味から組織幹細胞と名付けられた。組織幹細胞は,条件によっては,本来の組織だけでなくさまざまな細胞に分化することがわかっている。一方,ヒトなど哺乳類初期胚の内部細胞塊からつくられた,さまざまな細胞に分化する能力を保ちながら増殖する培養細胞は,胚性幹細胞(ES細胞※5)と呼ばれる。
- ※5 ES細胞:EmbryonicStemcells