画像提供:株式会社D&Dピクチャーズ 地球最大(さいだい)の哺乳類(ほにゅうるい)として知られるクジラ。クジラは進化の過程(かてい)で一度陸上(りくじょう)に進出し,再(ふたた)び海に帰ったという説(せつ)もあるが,その過程(かてい)は謎(なぞ)に包(つつ)まれていた。近年,DNAの塩基配列(えんきはいれつ)やタンパク質(しつ)のアミノ酸(さん)配列を比較(ひかく)することで生物間の類縁関係(るいえんかんけい)を調べる学問(分子系統(けいとう)学)の発展(はってん)により,クジラに最(もっと)も近い現存(げんそん)する哺乳類(ほにゅうるい)は,海で暮(く)らすジュゴンなどではなく,カバであると考えられるようになっている。 もっと詳しく※東京書籍 高等学校理科用教科書「生物」より引用 生物の系統と分類 地球上で生物が進化してきた道筋(みちすじ)は系統(けいとう)と呼(よ)ばれる。系統(けいとう)を表す図は,樹木(じゅもく)状(じょう)の形に描(か)かれるため系統樹(けいとうじゅ)と呼(よ)ばれる。一方,分類(ぶんるい)は類似(るいじ)したなかまの集合をつくっていく作業であるので生物の系統(けいとう)関係(かんけい)がそのまま反映(はんえい)されているとは限(かぎ)らない。そのため,絶(た)えず分類(ぶんるい)と系統(けいとう)関係(かんけい)が矛盾(むじゅん)しないようにする努力(どりょく)がされている。新たな系統(けいとう)関係(かんけい)が明らかになって,従来(じゅうらい)の分類(ぶんるい)体系(たいけい)と明らかに矛盾(むじゅん)する場合は,系統(けいとう)関係(かんけい)が反映(はんえい)されるように分類(ぶんるい)体系(たいけい)が改変(かいへん)される。 系統の探究 生物間の系統(けいとう)関係(かんけい)を推定(すいてい)する方法(ほうほう)は数多くある。比較(ひかく)的(てき)大きな生物では昔から外部形態(けいたい),解剖(かいぼう)などによる内部構造(こうぞう)や発生のしかたを比較(ひかく)して系統(けいとう)関係(かんけい)が推定(すいてい)されてきた。また,顕微鏡(けんびきょう)技術(ぎじゅつ)の発達(はったつ)により細胞(さいぼう)の内部構造(こうぞう)などの微細(びさい)構造(こうぞう)を比較(ひかく)することが可能(かのう)になってきた。さらに化学成分(せいぶん)や染色体(せんしょくたい)数などの情報(じょうほう)も系統(けいとう)関係(かんけい)を明らかにするのに使われている。化石は過去(かこ)の生物を知るうえで重要(じゅうよう)な資料(しりょう)であるとともに生物の系統(けいとう)関係(かんけい)を知るうえでも重要(じゅうよう)である。最近(さいきん)では,すべての生物がもつDNAの塩基配列(えんきはいれつ)による系統(けいとう)関係(かんけい)の解析(かいせき)が一般(いっぱん)的(てき)になり,生物界全体の系統(けいとう)関係(かんけい)の概要(がいよう)が明らかになってきた。 形態の比較 古くから外部形態(けいたい)は生物の分類(ぶんるい)基準(きじゅん)として用いられてきた。系統(けいとう)関係(かんけい)を推定(すいてい)するうえでも外部形態(けいたい)や解剖学(かいぼうがく)的(てき)特徴(とくちょう)は重要(じゅうよう)な情報源(じょうほうげん)である。形態(けいたい)の類似(るいじ)には,共通(きょうつう)の祖先(そせん)をもつための類似(るいじ)(相同(そうどう))と,系統(けいとう)関係(かんけい)はないが偶然(ぐうぜん)や同じ機能(きのう)を実現(じつげん)するために似(に)た形態(けいたい)になったもの(相似(そうじ))があり,両者を区別(くべつ)して考える必要(ひつよう)がある。 例(たと)えば同じはねでも鳥の翼(つばさ)と昆虫(こんちゅう)の翅(はね)は起源(きげん)の異(こと)なる構造(こうぞう)であり,相似(そうじ)の関係(かんけい)である。鳥の翼(つばさ)はハチュウ類(るい)や哺乳類(ほにゅうるい)の前肢(ぜんし)と相同(そうどう)である。 発生様式の比較 動物の系統(けいとう)はその発生様式の比較(ひかく)により探究(たんきゅう)が行われてきた。ヘッケルは「個体(こたい)発生は系統(けいとう)発生を繰(く)り返(かえ)す」と考え,発生様式をもとに動物の系統樹(けいとうじゅ)を作成(さくせい)した。現在(げんざい)ではこの発生反復(はんぷく)説(せつ)が当てはまらない例(れい)も多くあることが明らかになっている。しかし,それでもなお発生様式は系統(けいとう)関係(かんけい)の有力な根拠(こんきょ)として重要(じゅうよう)である。例(たと)えば,ホヤの成体(せいたい)は固着(こちゃく)生活をし,脊索(せきさく)をもたないが,幼生(ようせい)はおたまじゃくし状(じょう)で脊索(せきさく)をもつ。このことから,ホヤは脊椎(せきつい)動物(発生初期(しょき)に脊索(せきさく)を生じる)と近縁(きんえん)であることがわかる。 DNA塩基配列の比較 生物のさまざまな性質(せいしつ)を決定する遺伝(いでん)情報(じょうほう)はDNA上に保持(ほじ)されている。このDNAをもつことは,すべての生物に共通(きょうつう)する特徴(とくちょう)である。そのため,DNAの塩基配列(えんきはいれつ)による比較(ひかく)は,形や大きさが非常(ひじょう)に異(こと)なる生物群(せいぶつぐん)間でも行うことが可能(かのう)である。また,生物のもつDNA上には,多くの遺伝子(いでんし)があり,多数の塩基(えんき)でできている。そのため,DNAのもつ情報(じょうほう)量(りょう)は非常(ひじょう)に多く,精度(せいど)のよい推定(すいてい)が可能(かのう)である。 DNAは領域(りょういき)により突然(とつぜん)変異(へんい)による塩基配列(えんきはいれつ)の変化(へんか)が蓄積(ちくせき)する速さが異(こと)なる。例(たと)えば重要(じゅうよう)な機能(きのう)をもつタンパク質(しつ)の遺伝子(いでんし)では,アミノ酸(さん)を変化(へんか)させてタンパク質(しつ)の機能(きのう)に影響(えいきょう)を与(あた)えるような突然(とつぜん)変異(へんい)はまれにしか集団(しゅうだん)中には残(のこ)らず,比較(ひかく)的(てき)近縁(きんえん)な生物種(せいぶつしゅ)間の塩基配列(えんきはいれつ)の違(ちが)いが少ない。一方,アミノ酸(さん)配列を変化(へんか)させない突然変異(とつぜんへんい)や機能(きのう)にあまり影響(えいきょう)しないアミノ酸(さん)が置換(ちかん)される突然(とつぜん)変異(へんい)は集団(しゅうだん)中に残(のこ)ることが多く,比較(ひかく)的(てき)近縁(きんえん)な生物種(せいぶつしゅ)間でも塩基配列(えんきはいれつ)の違(ちが)いが多くみられる。DNAのこのような特徴(とくちょう)を利用(りよう)して,生物界全体の系統(けいとう)から近縁(きんえん)種(しゅ)間の系統(けいとう)まで広範囲(こうはんい)の系統(けいとう)を推定(すいてい)するのに適用(てきよう)することが可能(かのう)である。 生物の名前と分類名 生物の種(しゅ)を正式に表すには学名(がくめい)を用いる。学名(がくめい)の命名方法(ほうほう)は国際(こくさい)規約(きやく)により定められていて,現在(げんざい)はリンネが確立(かくりつ)した二名法(にめいほう)が採用(さいよう)されている。すなわち属名(ぞくめい)と種小名(しゅしょうめい)を併記(へいき)する方法(ほうほう)で,その後に命名者を付(ふ)すこともある。学名(がくめい)は必(かなら)ず属名(ぞくめい)がついているので,同じ属(ぞく)に入れられる近縁(きんえん)な種(しゅ)は学名(がくめい)を見るとわかるようになっている。これに対して,私(わたし)たちが日本で一般(いっぱん)的(てき)に用いているのは和名(わめい)である。和名(わめい)には規約(きやく)がなく,慣用(かんよう)的(てき)に使用されている。 今日では,生物を分類(ぶんるい)する基本的(きほんてき)な単位(たんい)として種(しゅ)が用いられている。種(しゅ)は同じような特徴(とくちょう)をもった個体(こたい)の集まりであるが,そのあり方は生物によりさまざまで画一的(かくいつてき)な定義(ていぎ)は難(むずか)しい。種(しゅ)の基準(きじゅん)として数多くの考え方があるが,互(たが)いに交配し子孫(しそん)を残(のこ)すことが可能(かのう)かどうかを基準(きじゅん)とする生物学的種(しゅ)の概念(がいねん)を用いる場合が多い。 地球上の数多くの生物を種名(しゅめい)だけで認識(にんしき)するには限界(げんかい)がある。そのため,お互(たが)いが似(に)たような種(しゅ)を集めて属(ぞく)という階級がつくられている。同様に似(に)た属(ぞく)をまとめて科(か)がつくられる。さらに上位(じょうい)の階級として目(もく),綱(こう),門(もん),界(かい)が設(もう)けられ,階層(かいそう)的(てき)に整理,分類(ぶんるい)される。また,種(しゅ)の下位(かい)の階級として亜種(あしゅ),変種(へんしゅ)や品種(ひんしゅ)が用いられている。これらの各(かく)階級に属(ぞく)する生物群(せいぶつぐん)は分類(ぶんるい)群(ぐん)と呼(よ)ばれている。種(しゅ)以外(いがい)の分類(ぶんるい)群(ぐん)をまとめる基準(きじゅん),階級の基準(きじゅん)を一意的(いちいてき)に定めることは難(むずか)しく,しばしば人為(じんい)的(てき)な分類(ぶんるい)体系(たいけい)となる。しかし,できるだけ対象(たいしょう)生物のたどってきた歴史(れきし),すなわち系統(けいとう)を反映(はんえい)する分類(ぶんるい)になるように努力(どりょく)されている。 参考リンク※下記は外部サイトにリンクします 【東京書籍】教科書・教材 [生物301] 生物 トピックスリスト
画像提供:株式会社D&Dピクチャーズ 地球最大(さいだい)の哺乳類(ほにゅうるい)として知られるクジラ。クジラは進化の過程(かてい)で一度陸上(りくじょう)に進出し,再(ふたた)び海に帰ったという説(せつ)もあるが,その過程(かてい)は謎(なぞ)に包(つつ)まれていた。近年,DNAの塩基配列(えんきはいれつ)やタンパク質(しつ)のアミノ酸(さん)配列を比較(ひかく)することで生物間の類縁関係(るいえんかんけい)を調べる学問(分子系統(けいとう)学)の発展(はってん)により,クジラに最(もっと)も近い現存(げんそん)する哺乳類(ほにゅうるい)は,海で暮(く)らすジュゴンなどではなく,カバであると考えられるようになっている。
もっと詳しく※東京書籍 高等学校理科用教科書「生物」より引用 生物の系統と分類 地球上で生物が進化してきた道筋(みちすじ)は系統(けいとう)と呼(よ)ばれる。系統(けいとう)を表す図は,樹木(じゅもく)状(じょう)の形に描(か)かれるため系統樹(けいとうじゅ)と呼(よ)ばれる。一方,分類(ぶんるい)は類似(るいじ)したなかまの集合をつくっていく作業であるので生物の系統(けいとう)関係(かんけい)がそのまま反映(はんえい)されているとは限(かぎ)らない。そのため,絶(た)えず分類(ぶんるい)と系統(けいとう)関係(かんけい)が矛盾(むじゅん)しないようにする努力(どりょく)がされている。新たな系統(けいとう)関係(かんけい)が明らかになって,従来(じゅうらい)の分類(ぶんるい)体系(たいけい)と明らかに矛盾(むじゅん)する場合は,系統(けいとう)関係(かんけい)が反映(はんえい)されるように分類(ぶんるい)体系(たいけい)が改変(かいへん)される。 系統の探究 生物間の系統(けいとう)関係(かんけい)を推定(すいてい)する方法(ほうほう)は数多くある。比較(ひかく)的(てき)大きな生物では昔から外部形態(けいたい),解剖(かいぼう)などによる内部構造(こうぞう)や発生のしかたを比較(ひかく)して系統(けいとう)関係(かんけい)が推定(すいてい)されてきた。また,顕微鏡(けんびきょう)技術(ぎじゅつ)の発達(はったつ)により細胞(さいぼう)の内部構造(こうぞう)などの微細(びさい)構造(こうぞう)を比較(ひかく)することが可能(かのう)になってきた。さらに化学成分(せいぶん)や染色体(せんしょくたい)数などの情報(じょうほう)も系統(けいとう)関係(かんけい)を明らかにするのに使われている。化石は過去(かこ)の生物を知るうえで重要(じゅうよう)な資料(しりょう)であるとともに生物の系統(けいとう)関係(かんけい)を知るうえでも重要(じゅうよう)である。最近(さいきん)では,すべての生物がもつDNAの塩基配列(えんきはいれつ)による系統(けいとう)関係(かんけい)の解析(かいせき)が一般(いっぱん)的(てき)になり,生物界全体の系統(けいとう)関係(かんけい)の概要(がいよう)が明らかになってきた。 形態の比較 古くから外部形態(けいたい)は生物の分類(ぶんるい)基準(きじゅん)として用いられてきた。系統(けいとう)関係(かんけい)を推定(すいてい)するうえでも外部形態(けいたい)や解剖学(かいぼうがく)的(てき)特徴(とくちょう)は重要(じゅうよう)な情報源(じょうほうげん)である。形態(けいたい)の類似(るいじ)には,共通(きょうつう)の祖先(そせん)をもつための類似(るいじ)(相同(そうどう))と,系統(けいとう)関係(かんけい)はないが偶然(ぐうぜん)や同じ機能(きのう)を実現(じつげん)するために似(に)た形態(けいたい)になったもの(相似(そうじ))があり,両者を区別(くべつ)して考える必要(ひつよう)がある。 例(たと)えば同じはねでも鳥の翼(つばさ)と昆虫(こんちゅう)の翅(はね)は起源(きげん)の異(こと)なる構造(こうぞう)であり,相似(そうじ)の関係(かんけい)である。鳥の翼(つばさ)はハチュウ類(るい)や哺乳類(ほにゅうるい)の前肢(ぜんし)と相同(そうどう)である。 発生様式の比較 動物の系統(けいとう)はその発生様式の比較(ひかく)により探究(たんきゅう)が行われてきた。ヘッケルは「個体(こたい)発生は系統(けいとう)発生を繰(く)り返(かえ)す」と考え,発生様式をもとに動物の系統樹(けいとうじゅ)を作成(さくせい)した。現在(げんざい)ではこの発生反復(はんぷく)説(せつ)が当てはまらない例(れい)も多くあることが明らかになっている。しかし,それでもなお発生様式は系統(けいとう)関係(かんけい)の有力な根拠(こんきょ)として重要(じゅうよう)である。例(たと)えば,ホヤの成体(せいたい)は固着(こちゃく)生活をし,脊索(せきさく)をもたないが,幼生(ようせい)はおたまじゃくし状(じょう)で脊索(せきさく)をもつ。このことから,ホヤは脊椎(せきつい)動物(発生初期(しょき)に脊索(せきさく)を生じる)と近縁(きんえん)であることがわかる。 DNA塩基配列の比較 生物のさまざまな性質(せいしつ)を決定する遺伝(いでん)情報(じょうほう)はDNA上に保持(ほじ)されている。このDNAをもつことは,すべての生物に共通(きょうつう)する特徴(とくちょう)である。そのため,DNAの塩基配列(えんきはいれつ)による比較(ひかく)は,形や大きさが非常(ひじょう)に異(こと)なる生物群(せいぶつぐん)間でも行うことが可能(かのう)である。また,生物のもつDNA上には,多くの遺伝子(いでんし)があり,多数の塩基(えんき)でできている。そのため,DNAのもつ情報(じょうほう)量(りょう)は非常(ひじょう)に多く,精度(せいど)のよい推定(すいてい)が可能(かのう)である。 DNAは領域(りょういき)により突然(とつぜん)変異(へんい)による塩基配列(えんきはいれつ)の変化(へんか)が蓄積(ちくせき)する速さが異(こと)なる。例(たと)えば重要(じゅうよう)な機能(きのう)をもつタンパク質(しつ)の遺伝子(いでんし)では,アミノ酸(さん)を変化(へんか)させてタンパク質(しつ)の機能(きのう)に影響(えいきょう)を与(あた)えるような突然(とつぜん)変異(へんい)はまれにしか集団(しゅうだん)中には残(のこ)らず,比較(ひかく)的(てき)近縁(きんえん)な生物種(せいぶつしゅ)間の塩基配列(えんきはいれつ)の違(ちが)いが少ない。一方,アミノ酸(さん)配列を変化(へんか)させない突然変異(とつぜんへんい)や機能(きのう)にあまり影響(えいきょう)しないアミノ酸(さん)が置換(ちかん)される突然(とつぜん)変異(へんい)は集団(しゅうだん)中に残(のこ)ることが多く,比較(ひかく)的(てき)近縁(きんえん)な生物種(せいぶつしゅ)間でも塩基配列(えんきはいれつ)の違(ちが)いが多くみられる。DNAのこのような特徴(とくちょう)を利用(りよう)して,生物界全体の系統(けいとう)から近縁(きんえん)種(しゅ)間の系統(けいとう)まで広範囲(こうはんい)の系統(けいとう)を推定(すいてい)するのに適用(てきよう)することが可能(かのう)である。 生物の名前と分類名 生物の種(しゅ)を正式に表すには学名(がくめい)を用いる。学名(がくめい)の命名方法(ほうほう)は国際(こくさい)規約(きやく)により定められていて,現在(げんざい)はリンネが確立(かくりつ)した二名法(にめいほう)が採用(さいよう)されている。すなわち属名(ぞくめい)と種小名(しゅしょうめい)を併記(へいき)する方法(ほうほう)で,その後に命名者を付(ふ)すこともある。学名(がくめい)は必(かなら)ず属名(ぞくめい)がついているので,同じ属(ぞく)に入れられる近縁(きんえん)な種(しゅ)は学名(がくめい)を見るとわかるようになっている。これに対して,私(わたし)たちが日本で一般(いっぱん)的(てき)に用いているのは和名(わめい)である。和名(わめい)には規約(きやく)がなく,慣用(かんよう)的(てき)に使用されている。 今日では,生物を分類(ぶんるい)する基本的(きほんてき)な単位(たんい)として種(しゅ)が用いられている。種(しゅ)は同じような特徴(とくちょう)をもった個体(こたい)の集まりであるが,そのあり方は生物によりさまざまで画一的(かくいつてき)な定義(ていぎ)は難(むずか)しい。種(しゅ)の基準(きじゅん)として数多くの考え方があるが,互(たが)いに交配し子孫(しそん)を残(のこ)すことが可能(かのう)かどうかを基準(きじゅん)とする生物学的種(しゅ)の概念(がいねん)を用いる場合が多い。 地球上の数多くの生物を種名(しゅめい)だけで認識(にんしき)するには限界(げんかい)がある。そのため,お互(たが)いが似(に)たような種(しゅ)を集めて属(ぞく)という階級がつくられている。同様に似(に)た属(ぞく)をまとめて科(か)がつくられる。さらに上位(じょうい)の階級として目(もく),綱(こう),門(もん),界(かい)が設(もう)けられ,階層(かいそう)的(てき)に整理,分類(ぶんるい)される。また,種(しゅ)の下位(かい)の階級として亜種(あしゅ),変種(へんしゅ)や品種(ひんしゅ)が用いられている。これらの各(かく)階級に属(ぞく)する生物群(せいぶつぐん)は分類(ぶんるい)群(ぐん)と呼(よ)ばれている。種(しゅ)以外(いがい)の分類(ぶんるい)群(ぐん)をまとめる基準(きじゅん),階級の基準(きじゅん)を一意的(いちいてき)に定めることは難(むずか)しく,しばしば人為(じんい)的(てき)な分類(ぶんるい)体系(たいけい)となる。しかし,できるだけ対象(たいしょう)生物のたどってきた歴史(れきし),すなわち系統(けいとう)を反映(はんえい)する分類(ぶんるい)になるように努力(どりょく)されている。
生物の系統と分類 地球上で生物が進化してきた道筋(みちすじ)は系統(けいとう)と呼(よ)ばれる。系統(けいとう)を表す図は,樹木(じゅもく)状(じょう)の形に描(か)かれるため系統樹(けいとうじゅ)と呼(よ)ばれる。一方,分類(ぶんるい)は類似(るいじ)したなかまの集合をつくっていく作業であるので生物の系統(けいとう)関係(かんけい)がそのまま反映(はんえい)されているとは限(かぎ)らない。そのため,絶(た)えず分類(ぶんるい)と系統(けいとう)関係(かんけい)が矛盾(むじゅん)しないようにする努力(どりょく)がされている。新たな系統(けいとう)関係(かんけい)が明らかになって,従来(じゅうらい)の分類(ぶんるい)体系(たいけい)と明らかに矛盾(むじゅん)する場合は,系統(けいとう)関係(かんけい)が反映(はんえい)されるように分類(ぶんるい)体系(たいけい)が改変(かいへん)される。
系統の探究 生物間の系統(けいとう)関係(かんけい)を推定(すいてい)する方法(ほうほう)は数多くある。比較(ひかく)的(てき)大きな生物では昔から外部形態(けいたい),解剖(かいぼう)などによる内部構造(こうぞう)や発生のしかたを比較(ひかく)して系統(けいとう)関係(かんけい)が推定(すいてい)されてきた。また,顕微鏡(けんびきょう)技術(ぎじゅつ)の発達(はったつ)により細胞(さいぼう)の内部構造(こうぞう)などの微細(びさい)構造(こうぞう)を比較(ひかく)することが可能(かのう)になってきた。さらに化学成分(せいぶん)や染色体(せんしょくたい)数などの情報(じょうほう)も系統(けいとう)関係(かんけい)を明らかにするのに使われている。化石は過去(かこ)の生物を知るうえで重要(じゅうよう)な資料(しりょう)であるとともに生物の系統(けいとう)関係(かんけい)を知るうえでも重要(じゅうよう)である。最近(さいきん)では,すべての生物がもつDNAの塩基配列(えんきはいれつ)による系統(けいとう)関係(かんけい)の解析(かいせき)が一般(いっぱん)的(てき)になり,生物界全体の系統(けいとう)関係(かんけい)の概要(がいよう)が明らかになってきた。
形態の比較 古くから外部形態(けいたい)は生物の分類(ぶんるい)基準(きじゅん)として用いられてきた。系統(けいとう)関係(かんけい)を推定(すいてい)するうえでも外部形態(けいたい)や解剖学(かいぼうがく)的(てき)特徴(とくちょう)は重要(じゅうよう)な情報源(じょうほうげん)である。形態(けいたい)の類似(るいじ)には,共通(きょうつう)の祖先(そせん)をもつための類似(るいじ)(相同(そうどう))と,系統(けいとう)関係(かんけい)はないが偶然(ぐうぜん)や同じ機能(きのう)を実現(じつげん)するために似(に)た形態(けいたい)になったもの(相似(そうじ))があり,両者を区別(くべつ)して考える必要(ひつよう)がある。 例(たと)えば同じはねでも鳥の翼(つばさ)と昆虫(こんちゅう)の翅(はね)は起源(きげん)の異(こと)なる構造(こうぞう)であり,相似(そうじ)の関係(かんけい)である。鳥の翼(つばさ)はハチュウ類(るい)や哺乳類(ほにゅうるい)の前肢(ぜんし)と相同(そうどう)である。
発生様式の比較 動物の系統(けいとう)はその発生様式の比較(ひかく)により探究(たんきゅう)が行われてきた。ヘッケルは「個体(こたい)発生は系統(けいとう)発生を繰(く)り返(かえ)す」と考え,発生様式をもとに動物の系統樹(けいとうじゅ)を作成(さくせい)した。現在(げんざい)ではこの発生反復(はんぷく)説(せつ)が当てはまらない例(れい)も多くあることが明らかになっている。しかし,それでもなお発生様式は系統(けいとう)関係(かんけい)の有力な根拠(こんきょ)として重要(じゅうよう)である。例(たと)えば,ホヤの成体(せいたい)は固着(こちゃく)生活をし,脊索(せきさく)をもたないが,幼生(ようせい)はおたまじゃくし状(じょう)で脊索(せきさく)をもつ。このことから,ホヤは脊椎(せきつい)動物(発生初期(しょき)に脊索(せきさく)を生じる)と近縁(きんえん)であることがわかる。
DNA塩基配列の比較 生物のさまざまな性質(せいしつ)を決定する遺伝(いでん)情報(じょうほう)はDNA上に保持(ほじ)されている。このDNAをもつことは,すべての生物に共通(きょうつう)する特徴(とくちょう)である。そのため,DNAの塩基配列(えんきはいれつ)による比較(ひかく)は,形や大きさが非常(ひじょう)に異(こと)なる生物群(せいぶつぐん)間でも行うことが可能(かのう)である。また,生物のもつDNA上には,多くの遺伝子(いでんし)があり,多数の塩基(えんき)でできている。そのため,DNAのもつ情報(じょうほう)量(りょう)は非常(ひじょう)に多く,精度(せいど)のよい推定(すいてい)が可能(かのう)である。 DNAは領域(りょういき)により突然(とつぜん)変異(へんい)による塩基配列(えんきはいれつ)の変化(へんか)が蓄積(ちくせき)する速さが異(こと)なる。例(たと)えば重要(じゅうよう)な機能(きのう)をもつタンパク質(しつ)の遺伝子(いでんし)では,アミノ酸(さん)を変化(へんか)させてタンパク質(しつ)の機能(きのう)に影響(えいきょう)を与(あた)えるような突然(とつぜん)変異(へんい)はまれにしか集団(しゅうだん)中には残(のこ)らず,比較(ひかく)的(てき)近縁(きんえん)な生物種(せいぶつしゅ)間の塩基配列(えんきはいれつ)の違(ちが)いが少ない。一方,アミノ酸(さん)配列を変化(へんか)させない突然変異(とつぜんへんい)や機能(きのう)にあまり影響(えいきょう)しないアミノ酸(さん)が置換(ちかん)される突然(とつぜん)変異(へんい)は集団(しゅうだん)中に残(のこ)ることが多く,比較(ひかく)的(てき)近縁(きんえん)な生物種(せいぶつしゅ)間でも塩基配列(えんきはいれつ)の違(ちが)いが多くみられる。DNAのこのような特徴(とくちょう)を利用(りよう)して,生物界全体の系統(けいとう)から近縁(きんえん)種(しゅ)間の系統(けいとう)まで広範囲(こうはんい)の系統(けいとう)を推定(すいてい)するのに適用(てきよう)することが可能(かのう)である。
生物の名前と分類名 生物の種(しゅ)を正式に表すには学名(がくめい)を用いる。学名(がくめい)の命名方法(ほうほう)は国際(こくさい)規約(きやく)により定められていて,現在(げんざい)はリンネが確立(かくりつ)した二名法(にめいほう)が採用(さいよう)されている。すなわち属名(ぞくめい)と種小名(しゅしょうめい)を併記(へいき)する方法(ほうほう)で,その後に命名者を付(ふ)すこともある。学名(がくめい)は必(かなら)ず属名(ぞくめい)がついているので,同じ属(ぞく)に入れられる近縁(きんえん)な種(しゅ)は学名(がくめい)を見るとわかるようになっている。これに対して,私(わたし)たちが日本で一般(いっぱん)的(てき)に用いているのは和名(わめい)である。和名(わめい)には規約(きやく)がなく,慣用(かんよう)的(てき)に使用されている。 今日では,生物を分類(ぶんるい)する基本的(きほんてき)な単位(たんい)として種(しゅ)が用いられている。種(しゅ)は同じような特徴(とくちょう)をもった個体(こたい)の集まりであるが,そのあり方は生物によりさまざまで画一的(かくいつてき)な定義(ていぎ)は難(むずか)しい。種(しゅ)の基準(きじゅん)として数多くの考え方があるが,互(たが)いに交配し子孫(しそん)を残(のこ)すことが可能(かのう)かどうかを基準(きじゅん)とする生物学的種(しゅ)の概念(がいねん)を用いる場合が多い。 地球上の数多くの生物を種名(しゅめい)だけで認識(にんしき)するには限界(げんかい)がある。そのため,お互(たが)いが似(に)たような種(しゅ)を集めて属(ぞく)という階級がつくられている。同様に似(に)た属(ぞく)をまとめて科(か)がつくられる。さらに上位(じょうい)の階級として目(もく),綱(こう),門(もん),界(かい)が設(もう)けられ,階層(かいそう)的(てき)に整理,分類(ぶんるい)される。また,種(しゅ)の下位(かい)の階級として亜種(あしゅ),変種(へんしゅ)や品種(ひんしゅ)が用いられている。これらの各(かく)階級に属(ぞく)する生物群(せいぶつぐん)は分類(ぶんるい)群(ぐん)と呼(よ)ばれている。種(しゅ)以外(いがい)の分類(ぶんるい)群(ぐん)をまとめる基準(きじゅん),階級の基準(きじゅん)を一意的(いちいてき)に定めることは難(むずか)しく,しばしば人為(じんい)的(てき)な分類(ぶんるい)体系(たいけい)となる。しかし,できるだけ対象(たいしょう)生物のたどってきた歴史(れきし),すなわち系統(けいとう)を反映(はんえい)する分類(ぶんるい)になるように努力(どりょく)されている。