有人潜水調査船「しんかい6500」
©JAMSTEC/NHK

化学合成生態系かがくごうせいせいたいけい」とは,太陽光(光合成こうごうせい)に依存いぞんせず,地球の内部からがる熱水ねっすいなどにふくまれる成分せいぶん硫化水素りゅうかすいそやメタン)をエネルギーげんにする化学合成細菌ごうせいさいきんによる有機物ゆうきぶつ合成ごうせいによってっている生態系せいたいけいである。ユノハナガニなどのカニるいやイソギンチャクるい二枚貝類にまいがいるい,チューブワームなどが構成こうせいするゆたかな生態系せいたいけいは深海のオアシスといえるだろう。

もっと詳しく※東京書籍 高等学校理科用教科書「生物」より引用

熱水噴出孔と古細菌

南西諸島海域・沖縄県西表島の北方約30kmにある鳩間海丘(水深約1,480m)の高さ約40mに及ぶビッグチムニーの頂上部©JAMSTEC/NHK

地球における生命の起源きげんについては,まだ未解明みかいめいなことが多い。そのなかで,海底かいてい熱水ねっすい噴出孔ふんしゅつこう周囲しゅうい初期しょき生命の誕生たんじょうや進化の場と考えて注目している研究者もいる。熱水ねっすい噴出孔ふんしゅつこうでは,高温の熱水ねっすい硫化りゅうか水素すいそ,メタンなどが噴出ふんしゅつしている。

熱水噴出孔 ©JAMSTEC

このような場所には,硫化りゅうか水素すいそやメタンを用いて有機物ゆうきぶつ合成ごうせいする微生物びせいぶつを中心とした生態系せいたいけい形成けいせいされているこのような熱水ねっすい噴出孔ふんしゅつこうまわりからは多様な古細菌こさいきんが見つかっていて,なかには100℃をえる高温で増殖ぞうしょく可能かのう古細菌こさいきん単離たんりされ培養ばいようされている。これらの古細菌こさいきん分類学ぶんるいがくてき検討けんとうは急速に進んでおり,熱水ねっすい噴出孔ふんしゅつこう特異とくいてき存在そんざいする古細菌こさいきん系統けいとうも明らかになりつつある。生育環境かんきょうが水深1000mをえる深海底しんかいていであり,観察かんさつ採集さいしゅうきわめて困難こんなんな場所ではあるが,生命の起源きげんの研究や生物遺伝子いでんし資源しげん探索たんさくなどの観点かんてんから精力せいりょくてきな研究が行われている。

化学合成

細菌さいきんのなかには,光に依存いぞんせずに,独立どくりつ栄養えいよう生活をいとなむものもいる。これらの細菌さいきんは,無機物むきぶつ酸化さんか反応はんのうで放出されたエネルギーを用いてATPを合成ごうせいし,炭酸同化たんさんどうかを行っている。このような反応はんのう化学合成かがくごうせいといい,化学合成かがくごうせいを行う細菌さいきん化学合成細菌かがくごうせいさいきんぶ。化学合成かがくごうせいにおけるATP生産せいさんは,呼吸こきゅう光合成こうごうせいの電子伝達でんたつによるATP生産せいさんと,しくみとしてはそうちがわず,H濃度のうど勾配こうばいをまずつくり,この勾配こうばいしたがうHの流れを利用りようしてATPを合成ごうせいしている。化学合成かがくごうせい特徴とくちょうづけるのは,還元かんげん力の強い無機物むきぶつが電子をあたえるという点である。
化学合成細菌かがくごうせいさいきんの具体的なれいをみてみよう。硝化しょうか細菌さいきん無機窒素化合物むきちっそかごうぶつ利用りようする化学合成細菌かがくごうせいさいきんで,アンモニアを酸化さんかして亜硝酸あしょうさんにする亜硝酸あしょうさんきんと,亜硝酸あしょうさん酸化さんかして硝酸しょうさんにする硝酸しょうさんきんがある。これらは土壌どじょう中に豊富ほうふ存在そんざいし,陸上りくじょう生態系せいたいけい窒素ちっそ循環じゅんかんにおいて重要じゅうよう役割やくわりたしている。
硫黄いおう細菌さいきん硫化りゅうか水素すいそ硫黄いおう,鉄細菌さいきんは鉄,水素すいそ細菌さいきん水素すいそ酸化さんかから,炭酸同化たんさんどうかのエネルギーをている。海底かいてい熱水ねっすい噴出孔ふんしゅつこう周辺しゅうへんなどでは,こうした化学合成細菌かがくごうせいさいきん生産者せいさんしゃである特異とくい生態系せいたいけいが見つかっている。
  • シロウリガイ©JAMSTEC

  • コシオリエビ©JAMSTEC

  • ハオリムシ©JAMSTEC

化学合成細菌を基盤とする熱水噴出孔周辺の生物群集